『都市瞬』“一”
或夏の日暮です。
歌舞伎町の西らへんの公園で、ぽんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
若者は名をトシハルといって、元はNO.2ホストでしたが、今は財産を費い尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になっているのです。
何しろ歌舞伎町といえば、センター街くらい、繁昌を極めた街ですから、往来にはまだしっきりなく、ホストやキャバ嬢が通っていました。公園一ぱいに当っている、油のような黄昏の光の中に、お年を召したホストのかぶった紗々みたいな帽子や、トルコ系お嬢の金の耳環や、現NO.1ホスト“白馬”に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。
しかしトシハルは相変わらず、公園のベンチに身を凭せて、ぽんやり空ばかり眺めていました。空には、もう下弦の月が、ウララウララと靡く霞の呼吸のように、まるで爪の垢煎じて呑ませたいと思う程、かすかに白く浮かんでいるのです。
「日はグレるしー
腹はヘルシー
泊めてくれるとこもなさそうだしー
ーーこの思い。
一そ川へでも身をバンジー
死んでしまった方がましかも知ー」
トシハルはひとりさっきから、こんな取りとめもないビートを刻んでいたのです。
するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眼帯のホームレスがあります。それが黄昏の光を浴びて、大きな影をベンチに落すと、じっとトシハルの顔を見ながら、
「喪前は何を考えているのだyo」と、WOW!HEY!(横柄)に言葉をかけました。
「漏れ? 漏れは今日どこで寝よおもてww てあ?」
ホームレスの尋ね方が急でしたから、トシハルはさすがに眼を伏せて、思わず正直な答をしました。
「テラカワイソスうえうえ」
老人は暫く何事か考えているようでしたが、やがて、往来にさしている黄昏の光を指さしながら、
「ではオレっちが(・∀・)イイ!!ことを一つ教えてやろう。
NOWこのTASO・KARE中にSTAND?
喪前のSHADOW地にプロジェクションマッピング?
そのHEAD・HITする所?
掘ってみるが(・∀・)イイ!!MIDNIGHT。
きっと車に一ぱいの
黄金が埋まっている筈だから」
「MGK」
トシハルは驚いて、伏せていた眼を挙げました。ところが更に不気味なことには、あのホームレスは、どこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、SHADOWとSHAPEも見当りません。その代りと言っちゃあなんですけど空の上弦の月の色は前よりも猶白くなって、というか最早下から上に変わってて、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い鴉が二三羽ひらひら舞っていました。
© 1920 芥川龍之介